19.素晴らしい世界戦

新田 渉世
 
 9月18日(月)敬老の日、WBC世界スーパーフライ級暫定王座決定戦―川嶋勝重(大橋)対クリスチャン・ミハレス(メキシコ)を観戦する為に、妻とふたりでパシフィコ横浜へ足を運んだ。

 この日は、前座試合でも東洋太平洋ウェルター級タイトルマッチ、東洋太平洋ミニマム級タイトルマッチと、好カードが目白押しだったが、駆けつけた時には既にメインエベント前の予備試合がおこなわれている最中だった。
 アリーナ席には、知っているボクシング関係者の顔が並んでいたので、一通り挨拶をして回った。一階席、二階席ともまずまずの観客が入っていた中、我々は一階席の割とリングに近い席に腰掛け、ワクワクしながらメインエベンターの入場を待った。

 あるボクシング関係者がボソッと私に話しかけてきた。「ミハレスの奴、入場の5分前までジーパンはいてリラックスしてましたよ。あいつら、ホント適当ですよね・・・」中南米の選手は、陽気な国民性もあるのだろうが、試合の第1ラウンド、第2ラウンドをウォーミングアップ代わりにするという話は聞いたことがある。しかし、それにしても日本人の我々から見ると大胆というか、適当というか、驚きである。

 軽快な音楽と共にミハレスが入場してくると、在日メキシカン達だろうか、2階席で「メヒコ!メヒコ!」の大合唱がおこった。一方、川嶋は懐かしいところで、クリスタルキングの「大都会」と共にリングに入場した。
 やっぱり世界戦は独特の雰囲気がある。「いつか新田ジムからもこのリングに上がる選手が誕生してくれたらいいな・・・」などと思いながら、スポットライトに目を細めていた。

 熱のこもったリングアナウンスで両選手が紹介され、いよいよ試合開始のゴングが鳴った。川嶋はいつもの様に上体を鋭く左右に振りながらプレッシャーをかけていった。しかし、ミハレスは軽快なフットワークで距離を取りながら、鋭いワンツーやコンビネーションを放っていた。「ん~、上手いなぁ・・・」私は初めて見るメキシコ人の動きに関心してしまった。

 緊張感のある第1ラウンドを終え、試合は第2ラウンドへと進んだ。両者とも更にエンジンがかかり、激しい攻防が展開していった。そしてサウスポーのミハレスの左ガードが下がった瞬間、川嶋の右ロングフックがメキシコ人のアゴに吸い込まれていった。
 「ダウン!」ミハレスは見事にキャンパスに崩れ落ち、レフェリーがカウントを数え始めた。フラフラしながら何とか立ち上がったが、川嶋はここぞとばかりに襲いかかった。しかし、残念ながらとどめを刺すことは出来ずに第2ラウンドを終了した。

 その後、一進一退の攻防が繰り広げられ、試合は最高の盛り上がりと共に最終ラウンドを迎えた。個人的には、「やや川嶋不利かな・・・」という印象だったが、最終ラウンドで見せた元王者の意地は凄まじかった。鍛え抜かれた身体のパワーは衰えるどころか最後の最後まで激しく相手を攻め立てていた。

 大歓声の中で試合終了のゴングが鳴り、勝敗は判定に持ち越された。

 「勝者、WBC世界スーパーフライ級ニューチャンピオン、クリスチャン・ミハレス!」日本人としては本当に悔しいアナウンスが響き渡った。しかし、私は何故か清清しい気分だった。両者の素晴らしいファイトに素直に感動してしまった。会場を出てゆく観客達も、「凄いファイトだったな」「ボクシングっていいよな」と、全体的に満足げな印象だった。

 今後の進退は分からないが、川嶋勝重というボクサーが世間に対して与えたインパクトは、返り咲きを果たせなかったとしても、とても大きいものだったような気がする。そして、私自身にも「ボクシングって素晴らしいんだ」と再認識をさせてくれた。久しぶりに良い気分になることが出来た試合観戦だった。


▼新田ボクシングジム
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