34.ジムの長男坊

新田 渉世

 黒田雅之の全日本新人王・MVP獲得で締めくくった2006年。ジムとしても18勝(6KO)14敗2分と勝ち越すことが出来、全体的に良い年だったと言える。
 しかし、その陰で“大きな星”がジムを離れてゆこうとしていることに寂しさを禁じ得ない。
 
 西禄朋(にし よしとも)―。新田ジムの長男坊として、開設以来このジムを引っ張ってきた男だ。子供の頃からアウトローで生きてきた西が、おそらく「生まれて初めて」一生懸命に取り組んだボクシング。

 バイクの事故で右足を複雑骨折し、そのリハビリ目的で新田ジムに入門した。初心者ながらもセンスが良く、見かけに寄らず真面目に取り組み、僅か半年でプロテストに合格。その2ヶ月後にデビュー戦に勝利するなど、駆け出しは順調だった。

 やがて6回戦に昇格したが、ある試合でかつての仲間達の目の前で無様なノックアウト負けを喫してしまった。西は大きな挫折感を味わい、一度は消息不明となってしまったものの、「会長、もう一度やらせて下さい」と、決意を胸に帰ってきた。
 彼がボクサーとして一皮むける為に、私はストレングスコーチとメンタルトレーニングコーチをジムに招請し、指導体制の充実を図った。今では西以外の選手達にも浸透し、少しずつ結果に結びついてきている。黒田の栄冠獲得にも寄与するところが大きかった。
 西のそれまでの半生、それまでの考え方と、完全にマッチング出来たとは言えなかったが、彼なりにそれらを取り込む努力をしてきた。
 半年後のカムバック戦では、実力的には勝てると思われた相手に判定負けを喫してしまうが、くさらずにもう一度立ち上がった。そして、その3ヶ月後に実に1年半ぶりの勝者コールを聞くことが出来たのだ。

 しかし―、昨年の暮れ、黒田の全日本新人王決勝戦の2日前におこなわれた6回戦マッチで、西は判定負けを喫してしまった。戦績は5勝(2K0)5敗1分と、決して彼の実力を示す数字ではないものとなった。
 今更言い訳をするつもりは無いが、試合前にスパーリングで首の筋を痛め、本番までに完治させることは出来なかった。中盤以降、西は首の激痛に耐えながら戦わなくてはならなかった。

 試合翌日、西は「辞めます」とジムに挨拶にやって来た。私は、前回消息不明になってしまった時とは違い、それを止めることが出来なかった。27歳、5勝(2KO)5敗1分―。もちろん、「まだ早いだろ!」と言いたい気持ちは山々だ。しかし、ボクシングは体を痛める競技だ。このまま続けることが、西の体にとって良いことかどうかは分からない。
 西は自ら運営していたオフィシャルホームページを閉鎖してしまい、荷物をまとめてジムを去って行った。

 複雑な心境ではある。しかし、彼が今後の人生を良いものにしてゆけるのであればそれでもいいと思う。今は、彼のことを、そして彼が良い人生を歩んでくれることを信じるしかない―。
  
  ▼新田ボクシングジム
神奈川県川崎市多摩区登戸2832 小田急線向ケ丘遊園駅徒歩5分
TEL 044-932-4639
http://www.nittagym.com/

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