46.プロテスト

新田 渉世

 久しぶりにプロテストに同行した。今回はK君とT君の2名が受験したのだが、実は両者ともプロテストは3度目の挑戦となる。
 
 新田ジムは、かれこれ30名近くのプロボクサーを輩出し、プロテスト受験はおそらくその倍以上の回数を重ねている。また、私は会長という立場上、担当選手は持たずに全体を見る形をとっている。
 とはいえ、やはりテスト会場へ同行し、不安そうな選手の顔をそばで見ていると「何とか合格させてやりたい」という情が沸いてくるものだ。しかも3度目の挑戦となると尚更である。

 Kは料理の専門学校を出て飲食の世界を目指していたが、現在はボクシングに打ち込んでいる。ボクシングセンスはなかなかのものを持っており、これまでの2度の不合格も、「えっ、あれで??」と思えた内容だった。

 T は30歳になる直前に今回の受験申請をした。今年4月からプロテスト受験年齢が32歳に引き上げられなければ、今回がラストチャンスとなるはずだった。ルール改正で、少し気持ちにゆとりが持てたとはいえ、今度こそ結果を出したいところだった。

 2回目以降の受験者は筆記試験を免除されるので、KとT は計量を済ませると実戦テストの会場へ入った。3度目ともなると慣れたもので、2人とも手際よく準備を進めた。

 Kの順番が先に回ってきた――。
 ジャブとワンツーが得意なKだが、相手は強いプレッシャーで前へ前へと攻めて来た為、Kのパンチがうまくヒットしない。ロープへ詰められることもしばしばだったが、何とかサイドステップで体を入れ替えて打ち返した。
 技術は見せたが、全体の印象はやや押され気味だったことは否めない内容だった。

 しばらく間を置いてTの番が回ってきた――。
 Tの持ち味は、重戦車の様な強い体と破壊力のある左右のフックだ。プロテストでは、しっかりとしたジャブとワンツーが打てなくてはならない為、T にとってはやや不利な条件と言えた。更に、テスト前のスパーリングで肋骨を痛めるというハンデも背負っていた。
 ゴングが鳴るとT は気合いで相手に攻め込んでいった。私の指示通りに頭を左右に振って左を突き、接近戦でボディを叩いた。2ラウンド目にはダウンを奪い、全体的に相手を圧倒した。ただ、少々気負い過ぎて技術を見せることが出来なかったことが悔やまれた。

 2人とも精一杯頑張ったが、翌日の結果発表では明暗が分かれてしまった。Kは合格したが、T は残念な結果となってしまった。
 
 T から挨拶の電話がかかってきた際、私は「前よりも確実に良くなっている。今後どうするかは自分が決めることだが、まだまだ改善出来るところが沢山あるんだから、とことんやるべきだと思う――」と話した。T は「少し休んでまた頑張るつもりです」と答えた。

 「“負け”に負けるな――」と選手達に訴えかけている私は、Tの言葉が嬉しかった。試験会場で、「テストに5回落ちてもチャンピオンになった人がいるんだから大丈夫、大丈夫!」と言ってくれた横田ジム会長の言葉も、Tの心に響いていたようだった・・・。


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                        =概要=
         日本初の国立大卒チャンプが開いた小さなボクシングジム。
         そこに集う、プロ選手、練習生、トレーナー、そして自分自身。
         皆なんらかの傷を負い、なんらかの挫折感を噛み締めている。
         でも、ボクシングは人を変える。負けることで、人は変わる。
                    そう、「負け」に負けるな――
         スポーツによる魂の再生を描く、感動のヒューマン・ドキュメント。

  
  ▼新田ボクシングジム
神奈川県川崎市多摩区登戸2832 小田急線向ケ丘遊園駅徒歩5分
TEL 044-932-4639
http://www.nittagym.com/

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