12.同門対決

新田 渉世

 
 今年の「東日本新人王準決勝」で勝ち残ったバンタム級の片桐秋彦(22)と古橋大輔(21)は、以前にも本コラム=その9で紹介したが、同じ中学校の野球部出身で、一年違いの先輩後輩という関係だった。

 最終的に勝ち残れば、“同門対決”ということも視野に入れなくてはならないことは分かっていたが、それがとうとう現実となってしまった。
 「なってしまった」と表現したのは、やはり同門で試合をするということは、自身の子供同士がボクシングという打撃競技で雌雄を決するということになるわけで、親としては通常の試合にも増して胸が痛む対決となるからである。

 私はどうするべきか密かにずっと悩んでいたが、試合までの準備期間を考えると早急に決断しなくてはならなかった。
 考えた末、私は二人の気持ちを最大限尊重することにした。それぞれを別に呼び出し、お茶を飲みながら一対一で話をした。

 「“やれ”とも“やるな”とも言わない。それぞれの気持ちを尊重しようと思う。但し、二点だけしっかりと確認して欲しい。一つは、互いに致命的なダメージを負う、負わせることもあり得る事。二つめは、試合後は勝者と敗者という立場を受け入れて同じジムで過ごさなくてはならない事。それを確認した上で、気持ちを聞かせて欲しい」――それぞれに問いかけた。

 「そういうことは覚悟の上で、試合をやらせて欲しい」片桐はまっすぐ私の目を見てそう言った。

 「新人王で片桐先輩と戦うことを目標に頑張って来ました」古橋の意思も揺るぎないことを確信した

 「わかった。後でどうするかを決めて連絡する」私は相手が何と言っていたかは知らせずに、一度それぞれの気持ちを預かった。

 翌日、私は同門対決をおこなう決断をし、片桐、古橋、そしてジムのスタッフにメールを送った。

 但し、指導体制、練習環境については別途検討が必要である。
 それぞれ別の担当トレーナーがいるので、主たる指導については問題ないが、会長である私の助言は公平を保たなくてはならない。
 また、練習時間をずらすべきかどうか、同階級である両者のスパーリングパートナーをどう用意するか、互いにスパーリングをすることがあり得るのか、試合当日のセコンドはどうするのか・・・。

 様々なことを考えてゆかなくてはならないが、とにかく両者の気持ちを尊重し、“同門対決”はおこなわれることになった。
 これから胃の痛いことが多くなるだろうが、勝負の世界に生きる以上はやむを得ない。そして、誰よりも壁を乗り越えなくてはならないのは、片桐と古橋の二人なのだ。
 「頑張れ!」 今はこれしか言えない・・・

  
    

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                        =概要=
         日本初の国立大卒チャンプが開いた小さなボクシングジム。
         そこに集う、プロ選手、練習生、トレーナー、そして自分自身。
         皆なんらかの傷を負い、なんらかの挫折感を噛み締めている。
         でも、ボクシングは人を変える。負けることで、人は変わる。
                    そう、「負け」に負けるな――
         スポーツによる魂の再生を描く、感動のヒューマン・ドキュメント。

  
  ▼新田ボクシングジム
神奈川県川崎市多摩区登戸2832 小田急線向ケ丘遊園駅徒歩5分
TEL 044-932-4639
http://www.nittagym.com/

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