13.同門対決②

strong>新田 渉世

 
 11月2日、東日本新人王バンタム級決勝――。ついに片桐秋彦と古橋大輔の「同門対決」の日をむかえることになった。

 「同門対決」は滅多におこなわれないことだが、試合が決まると互いに練習時間をずらすなど、避け合って口も聞かなくなるのが普通だという。
 同じ中学校野球部の先輩・後輩で、同じ新田ジム所属。日ごろは、「先輩」、「何だよ古橋」と仲良く話している二人にとっては、尚更つらい思いだったに違いない。ジム開設当初から、高校の制服を着て練習に通って来た二人を見てきた私にとっても、複雑な心境だった。

 しかし、二人は試合直前まで、「先輩」、「何だよ古橋」とずっと変わらずに過ごしてきた。
  地元の商店会へのあいさつ回りや、二人の出身中学訪問、ローカルテレビへの出演など、嫌な顔ひとつせずに一緒に回った。

 「あまり仲良くしてしていると、“出来レース”と見る人もいますよ」と、周りから忠告も受けたが、私は二人の自然体を尊重した。
 試合前の軽量も一緒に出かけ、計量後の食事も一緒に取った。
 「明日はどうする?」
 「明日は別々にホールに入ります」
 「じゃ、試合前はこれが最後だな。互いに健闘を誓い合おう」
私はそう言って二人の肩に手をのせた。

 試合当日、私はどちらのセコンドにもつかず、ニュートラルコーナーの下で二人を見守った。いや、気持は両方のセコンドについているつもりだった。

 6戦全勝同士――たとえ先輩、後輩の間柄でも、同門であっても互いに負けるわけにはいかない。勝てば“東日本新人王”なのだ。
 東日本新人王決勝は、お互いのジムの応援団が大挙して押し寄せ、毎年、大変な盛り上がりを見せる。今年も後楽園ホールは超満員となった。

 そして遂に「同門対決」の試合開始ゴングが鳴った。

 しかし・・・、二人の試合が始まると、ホールには“微妙な空気”が流れた。
 新田ジムの応援団は、どちらか片方を応援するわけにもいかず、両方を応援しなくてはならない。当然、他の試合に比べて盛り上がりを欠いてしまった。
 もちろん、本人同士はやりにくいはずである。「先輩」、「何だよ古橋」と昨日まで一緒に食事をしていた二人が、8オンスグローブで殴り合うのである。

 しかし、ラウンドが進むにつれて、次第に試合は白熱してきた。片桐は鼻血を出し、古橋は目の上を腫らした。
 後楽園ホールの“微妙な空気”も、“出来レース”と見る目も吹き飛ばし、二人は精一杯パンチを繰り出した。
 私は不覚にも目から涙があふれ出てしまった。

 試合終了ゴングまで、二人は手を出し続けた。結果は古橋の判定勝ちだった。先輩の片桐はさわやかに笑顔で握手を求め、後輩の古橋は号泣してそれに答えた。

 立派だった――。

 古橋の試合後のインタビューを見届けると、私は片桐の控え室へ走った。清々しい笑顔で私を見る片桐の頭を撫ぜ、「お疲れさん」とひと言だけ声をかけた。それ以上のことは何も言えなかった。

 私の拙文では描ききれないこの“ドラマ”に、ひとまずの終止符を打ちたい。

 片桐、古橋、本当に「お疲れさん」――

  
    

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                        =概要=
         日本初の国立大卒チャンプが開いた小さなボクシングジム。
         そこに集う、プロ選手、練習生、トレーナー、そして自分自身。
         皆なんらかの傷を負い、なんらかの挫折感を噛み締めている。
         でも、ボクシングは人を変える。負けることで、人は変わる。
                    そう、「負け」に負けるな――
         スポーツによる魂の再生を描く、感動のヒューマン・ドキュメント。

  
  ▼新田ボクシングジム
神奈川県川崎市多摩区登戸2832 小田急線向ケ丘遊園駅徒歩5分
TEL 044-932-4639
http://www.nittagym.com/

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